「出雲そば」の歴史は古く、寛永15(1638)年、そば処・信州松本から松平直政が藩主として着任した際に、信州の蕎麦職人を伴ったのがきっかけといわれている。その後、出雲大社の参拝客の旅の愉しみとして全国にその名が広まったとか。「出雲そば」最大の特徴は、色の黒さと高き香り。通常ソバ粉を作るには、殻を除いたソバの実を挽くが、「出雲そば」は殻付きの玄ソバをそのまま製粉するため、より蕎麦本来の風味をがつんと感じられる。また、冷たい「割子」と温かい「釜揚げ」があり、それぞれに異なる愉しみ方ができるのも特長のひとつだろう。丸い3段の器に盛られた冷たい蕎麦に、つゆをかける「割子そば」は、松江の風流人の集まり「連」の人たちが外で蕎麦を食べられる弁当にしたのが起源といわれる。(写真の『荒木屋』の「割子三代そば」1090円)
創業230年、数ある「出雲そば」屋の中で最も古い歴史を持つ『荒木屋』八代目店主・浜村裕昭さんは、「出雲そば」を作り続ける難しさをこう語る。「歴史ある食文化だからこそ、同じものを同じように作り続けていては『後退』になる。代々の味への責任は重いが、変化させている」。蕎麦と真摯に向き合う職人によって、代々守られ続けてきた「出雲そば」を、その思いを感じつつじっくりと味わいたい。(2018年3月時点の情報です)
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