常夜燈や点在する寺社・町家の佇まいに、江戸時代、潮待ちの港として栄えた往時の面影が色濃く残る町・広島県福山市の「鞆の浦」。その中でも類まれな絶景の地として知られるのが『福禅寺 對潮楼』だ。平安時代に空也上人により創建されたという福禅寺。そのなかで高官のための迎賓館として江戸時代に増築されたのが客殿「對潮楼」だ。客殿の前に広がるのは、数千年、数億年の月日を費やして生まれた自然の庭園。かつて朝鮮通信使たちが「日東第一形勝(朝鮮より東で一番美しい景勝地)」と称えた絶景は、時が経つのを忘れるほどの美しさで今も見る人の心をとらえてやまない。真東に向いた建物の窓枠から見る日の出により夏至や冬至などの季節もわかる造りになっており、赤い毛氈の上に佇みながら見る景色は江戸時代の頃から変わらないと言われている。当時の人が見た同じ景色を見ながら思いにふける、時が止まったようなひと時。この穏やかな時間が日常の喧噪を忘れさせてくれる。
鞆の浦ならではの眺望を満喫しながらひと休みするなら、市営渡船場2階にひっそりと佇む、隠れ家的なカフェ&ギャラリー『SHION』へ。窓際の特等席からは、弁天島や皇后島、仙酔島が目の前に、またよく晴れた日は遠くに四国を望む絶景が広がる。コーヒーを片手に贅沢なひと時を堪能したい。市営渡船場から船で5分の仙酔島に渡れば、西日本随一のパワースポット「五色岩」を訪ねることもでき、半日の街歩きで歴史と文化、自然の神秘を存分に楽しむことができる。土産には、かつて江戸時代、参勤交代の大名たちの贈答品として重宝された「保命酒」を。『岡本亀太郎本店』は、現在4社ある保命酒製造会社のうちのひとつ。当時醸していた「吉備の旨酒」、今でいうみりんに準ずる酒に、江戸時代に大阪から移り住んだ漢方医の中村吉兵衛が、薬味を16種漬け込んで生み出した。こっくり濃厚な甘さが特徴のこの薬味酒を口にするたび、この地で触れた神秘なる感動を色鮮やかに思い出すに違いない。
鞆の浦から渡船「平成いろは丸」でわずか5分で着く仙酔島。「仙人も酔ってしまうほど美しい」と称されたこの島に、海岸沿い200mにわたって青、赤、黄、白、黒と五色の岩が連なる風景が広がる「五色岩」がある。独特で渋い色彩を放っており、なにやら神秘的な雰囲気が漂う
安政2年(1855年)に清酒業として創業した『岡本亀太郎本店』。保命酒を作った中村吉兵衛と懇意にしており、かつて店先にかかっていた龍が彫られた大きな飾り看板も中村家より譲り受けられたものだ。「保命酒」は、あの黒船来航のペリーも接待時に食前酒として賞味したという文献も残る、鞆の浦の歴史を語るに欠かせない味。
写真に並ぶのは、アルコール度数が約14度の「保命酒」は300ml800円~、アルコール度数を40度に高めた「四十度保命酒」は100ml700円~。紀州南高梅や杏、ショウガを保命酒に漬け込んだ「梅太郎」「杏子姫」「生姜ノ助」各300ml1300円も人気。保命酒のベースになるみりんも製造。「純米仕込本味醂『岡本亀太郎』」600ml1600円
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