瀬戸内海では淡路島に次ぐ大きさを誇る小豆島。オリーブの栽培が盛んな島内には、醤油や佃煮、そうめんなど、その土地の歴史や風土が紡ぐ昔ながらの名物も多く、訪れる旅人を魅了している。さらに緑あふれる里山が育む米や野菜、瀬戸内海で水揚げされたばかりの鮮度抜群の魚介類など食材も豊富。旅先で出合う滋味あふれる料理の数々に、改めてこの島が育む豊かな恵みに気づかされる。
まずは、島内唯一の酒蔵『森國酒造』が営むカフェ&ギャラリーへ。香川県高松市で酒蔵を営んでいた前身『池田酒造』が、新天地の小豆島に移り、酒造りを始めたのが2005年。島の湧き水や地元の酒米を使い杜氏が醸す「島仕込み」にこだわり、日本酒の概念を覆す洗練されたデザインやネーミングで、小豆島から世界へ日本酒の魅力を発信している。
その舵取りを担うのが代表取締役の池田亜紀さん。先代らが築き上げてきた日本酒の魅力を、女性らしい感性と先見の明でさらに飛躍させた実力者だ。酒の名を広めたひとつが、この築70年の佃煮工場をリノベーションした『フォレスト酒蔵森國ギャラリー』。趣ある空間が広がる1階のカフェ&バーでは、「ふわふわ」「ふふふ」「うとうと」「びびび」など、一度聞いたら忘れられない名前の地酒を飲み比べ(1500円)を。酒の造詣が深いスタッフが、それぞれの個性や特徴、味わい方を教えてくれるので、日本酒ビギナーでも安心して愉しめる。無濾過ならではの米の旨み、ふくよかな香りにしばし酔いしれたい。もうひとつの看板メニュー、酒粕を使った粕汁が主役の「杜氏のまかない飯」1000円も、心にじんわり沁み入る優しいおいしさ。改めて日本酒の奥深き世界に惹きこまれていく。
『森國酒造』が展開するもうひとつの話題店が『森國ベーカリー』だ。「小豆島のおいしいものを気軽に食べてほしい」との想いから、2015年にオープン。酒米を精米する際に出てくる米粉を使ったふかふかのコッペパンが評判で、パンそのものを味わうシンプルなものや、『森國酒造』の酒粕を練りこんだ「酒粕あんこ」を挟んだものまでも。町歩きの供としてテイクアウトするのもいいが、カウンター席でオリーブ茶やコーヒーと一緒に味わったり、イートイン限定のメニューを愉しんだりするのもおすすめだ。
小豆島の玄関口のひとつ・草壁港からすぐの場所に、小豆島の旬の食材をふんだんに使った本格イタリアンジェラートが味わえる人気店がある。特産品のオリーブや島で採れた柑橘類、イチゴ、ビワ、スモモなど、みずみずしい地の恵みを凝縮したフレーバーは常時10種類以上。素材そのものの甘みやおいしさが際立つフレッシュな味わいに、旅の疲れも癒される。ほかにも、小豆島の食材を使ったパニーノやコーヒー、カプチーノなどの軽食も用意。空き倉庫をリノベーションした雰囲気のある空間で、ワインやビールなどアルコール片手に船を待つのもよし、潮風を感じるテラス席でジェラートでひと休憩するもよし。小豆島の恵みを凝縮したジェラテリア&バールで心地よい島時間を。
小豆島は日本有数の「そうめん」の産地。約400年前にお伊勢参りに出かけた島民が、奈良県三輪でそうめんの製造技術を学び、持ち帰ったのが始まりといわれている。温暖な気候、当時製造が盛んだった塩やごま油など、そうめん作りに欠かせない良質の材料がそろうことから一気に広まり、最盛期は250軒以上の店や工場が並んだという。そんな島の食文化ともいうべきそうめんの魅力に触れられるのが、老舗『なかぶ庵』の「箸分け体験」1400円(工場見学・食事付き)だ。そうめんの歴史や特徴を丁寧に教えてもらいながら工場を見学したあとは、いよいよ麺を長い箸で伸ばす体験へ。緊張した手つきで麺を引っ張り、上下に大きく箸を開いてさらに細く、長くすること数回。熟練の職人技で作られる手延べそうめんの奥深さを痛感しながら、やっと完成する。体験後は、できたての「生そうめん」をいただく愉しみも。もちもちの食感とつるりとした喉ごしは、乾燥させて作る従来のそうめんとはひと味違うおいしさ。産地ならではの醍醐味を五感で堪能したい。
最後に訪れたのは、小豆島のオリーブ農園『井上誠耕園』のアンテナショップ『らしく本館』。『井上誠耕園』は、約5000本のオリーブと14種類の柑橘を栽培するオリーブ農家。親子三代が手間ひまかけて大切に育てたオリーブや、良質のオリーブオイルを日常的に愉しんでほしいとの想いで2017年にオープンさせた。
1階には『井上誠耕園』自慢のオリーブや柑橘を使った化粧品、食品や雑貨などを販売。オリーブを使ったパンやスウィーツなども並び、そのバラエティの豊富さ、品数の多さに驚かされる。自分好みの味が見つかるテイスティングやマイオリーブオイル作り、オリーブの寄せ植えなど、体験メニューが充実しているのも大きな特徴。『井上誠耕園』自慢のオリーブや、みずみずしい柑橘の魅力を多角的に発信している。
2階にあるカフェレストラン『忠左衛門』は、瀬戸内海とオリーブ畑が一望できる絶好のロケーション。オリーブオイルの魅力を知り尽くした農家が考案したメニューはどれも味わい深く、素材の味を引き立てるオイルのおいしさに開眼するはず。眼下に絶景を眺めながらいただくひと時も贅沢そのもの。実直な農家の想いや小豆島旅の余韻に浸りながら、のんびりとくつろぎたい。
(2019年8月時点の情報です)