岡山県新見市発祥で日本最古の蔓牛(つるうし)の血統をひく千屋牛。三大ブランド牛の松坂・近江・神戸牛のルーツといわれる優秀な黒毛和種だ。
中国山地の緑豊かな自然と清らかな高梁川源流を有する新見市は、昔から農畜産業が盛んな地。この恵まれた環境で餌にとことんこだわり、手間ひまを惜しまず大切に育てられている。特徴は、きめ細やかな霜降りと甘みのある上質の赤身。飼育頭数が少なく、岡山県以外ではなかなか食べられないという。
その千屋牛を堪能するなら、地元の農業協同組合『JAあしん』直営の『焼肉 千屋牛』へ。自営の牧場から仕入れるので、品質と価格はお墨付き。口に運べば、ジューシーで柔らかな肉質、噛めば噛むほどあふれる旨みに驚かされる。素材を愉しむ焼肉だからこそ、際立つ千屋牛のポテンシャル。「和牛のなかの和牛」と称されるのもうなずけるおいしさだ。
上ロースと上カルビが付く人気の「千屋牛定食」2648円。ほかにも大人数向けの焼肉セットやステーキ、牛丼などメニューも多彩。ランチ限定の「千屋牛焼肉定食」906円など、手頃な価格も産地ならでは
焼肉とはひと味違う千屋牛の愉しみ方を提案してくれる『祥華』の名物「北大路魯山人風すき焼き」4500円(3日前までに電話で要予約)。美食家としても知られる北大路魯山人のレシピを基に考案。浅い鉄鍋で割下と呼ばれる調味料で煮込む「すき焼」と異なり、カツオや昆布、地醤油などを合わせただしに肉を泳がせて味わうのが特徴だ。主役はもちろんサシが美しいA5ランクの千屋牛。上質な肉の旨みを風味豊かなだしが引きたて、食べる手が止まらなくなる。みずみずしい地野菜を入れて煮込んだあとは、新見市草間特産の蕎麦やうどんでシメを。選りすぐりの美味を味わうすき焼は、最後まで愉しみが尽きない。
自家農園の有機無農薬野菜を使った薬膳料理も評判
写真は4人前
だしに肉をくぐらせたら、大根おろしを添えていただこう
滝や小川を臨む庭の景色にも心が和む
フルーツ王国・岡山が誇るブドウの一種「ピオーネ」。はちきれんばかりの大粒の果肉は種がなく、食べると濃厚な甘みとたっぷりの果汁があふれ出す。岡山県はピオーネの出荷量全国一位。なかでも日本有数のカルスト台地や寒暖差のある気候、長い日照時間など、ブドウ栽培に適した新見産のピオーネは特に評判だ。
『フルーツカントリー熊野』は標高380mのカルスト台地の上に広がる観光農園。2.3haの広大な畑にピオーネを中心とした数種のブドウを栽培し、9月下旬から10月上旬にかけてブドウ狩りを愉しめる。入場料を払えば時間無制限で味わえるのも人気の理由。黒いダイヤの名にふさわしい最高級のピオーネを心ゆくまで堪能したい。
ブドウの持ち帰りは不可。直売所で購入を
代表の逸見力士さん。毎年9月に地域をあげて「ブドウ祭り」を開催。西条柿の干しガキや干しシイタケなども販売
9月下旬頃が出荷のピーク。全国から注文が殺到する。ブドウ狩りをせず直売所で購入のみも可能だ。
続いて向かったのは、新見を代表する鍾乳洞『満奇洞』と『井倉洞』の中間地点にある『大原観光果樹園』。標高450~500mのカルスト台地にモモやナシ、リンゴなどを栽培。この地域特有の寒暖差のある気候が、濃厚な甘みと果汁をたたえた果物を育んでいる。7月上旬から8月中旬には、待ちに待ったモモ狩りがスタート。入園料だけで、もぎたての最高級フルーツが時間無制限で食べ放題できるとあって、年々リピーターが増え続けている。「はなよめ」「日川」「橋場」「白鳳」など品種も多く、最盛期には食べ比べができることも。美しい里山の風景や清々しい空気にも心身が満たされる。
直売所では旬のフルーツを格安で購入できる(果物狩りをしなくても購入のみ可能)
代表の上杉和雄さん。徹底した管理と新見の風土が極上のモモを育む
9~10月中旬はナシ狩り、9月中旬~11月はリンゴ狩りが可能。
パラグライダーなどのアクティビティで人気の「風の聖地」新見市大佐山。その中腹に農園を開墾し、紅茶を作っているのが『Early Morning』宮本英治さんだ。朝夕に霧がたちこめる寒暖差のある気候、水はけのよい東向きの急斜面など、土地形状や気象条件が世界三大紅茶の産地・インドのダージリン地方によく似ていることから1999年に移住。苗木が成長すると、念願の紅茶作りをスタートさせた。四季が顕著な新見の風土が育む茶葉は、春・夏・秋のクオリティシーズンごとに色・味・香りの違いがくっきり。その品質は、本場・英国『東インド会社』のティーマスターからも認められるほど。カフェのテラスでは、手入れが行き届いた美しい茶園を眺めながら一服できる。2019年春にはイングリッシュガーデンの整備や茶摘み体験など、来園者を愉しませる新たな仕掛けも始動する予定だ。
カフェや農園など、敷地内はすべて禁煙
右から看板商品「EIJI MIYAMOTO」の「ファーストフラッシュ(春摘み)」「セカンドフラッシュ(夏摘み)」「オータムフラッシュ(秋摘み)」各3240円。ティーバッグは土産にも人気(823円~)
カフェメニューの紅茶は648円~
自家製スコーンやケーキ(各648円)
摘みたての茶葉は敷地内の工場で加工される
「紅茶は万国共通の飲み物のひとつ。私の紅茶も世界中の食卓で日常のお茶として愉しんでほしい」と紅茶研究家の宮本さん
カルスト台地が広がる新見市草間は、江戸時代から続く蕎麦の名産地。かつて来客時にはどの家も手打ち蕎麦でもてなしていたというほど、地元の暮らしに密着している。その名物を味わえるのが『そば道場 田舎屋』。地元客も足繁く通う食事処だ。蕎麦粉は、草間産の玄蕎麦を、石臼で挽いて製粉。「引きたて・打ちたて・湯がきたて」にこだわった香り高い蕎麦を愉しませてくれる。自分で蕎麦を打つ「そば打ち体験」(1名2700円、要予約)もおすすめ。熟練の職人である店主の手ほどきを受けながら気軽に蕎麦の奥深き世界を体感できる。太めや短めなど不揃いの蕎麦が入り混じるのも一興。心を込めて打った蕎麦のおいしさは格別だ。
草間産の蕎麦の実
蕎麦粉とつなぎをあわせてまとめる
店主の数原護さん。困ったときは熟練の技で手直ししてくれる
麺棒で伸ばして成形。絶妙な力加減と手際が勝負
いよいよ麺切りへ
体験後は自分で打ったそばを「ざるそば」(+180円)または「けんちんそば」(+300円)で味わえる。体験なしでオーダーする場合は「ざるそば(並)」860円、「けんちんそば(並)」980円。締めは蕎麦つゆに蕎麦湯を注いで余韻を愉しんで
新見旅の一日の締めくくりは、深い山々と田園風景が広がる里山に佇む『新見千屋温泉 いぶきの里』へ。鳥取県との県境に位置し、観光の拠点として、冬は隣接するスキー場を満喫する客で賑わっている。炭酸水素イオンを多く含む湯は「美人の湯」としても評判。野趣あふれる露天風呂からは、四季折々に表情を変える千屋の自然が眺められ、心も体も解きほぐされる。もうひとつの愉しみは、地元の恵みあふれる料理。新見が誇るブランド牛・千屋牛などの美味を、肩肘張らずに堪能できる。食事処や温泉は日帰り利用も可能。地域のくつろぎの場としても親しまれている。
※休館中
※写真はイメージです
雪が降れば雪見風呂も楽しめる
隣接する『いぶきの里スキー場』
宿から車で5分の明地峠は雲海の絶景スポットとして有名。10月後半から12月の晴れた日の早朝が狙い目だ
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(2020年10月時点の情報です)